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ほたかだけびょうぶいわにて
穂高岳屏風岩にて
早川 鮎子
「岳人 二六五号」東京新聞出版局、1969(昭和44)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,194 字 · 7 页
一先ず、ここで確保する。ハーケンがきいていないとこぼしながらNがのぼってきた。そして、そのまま直上した。右上で確保しているNのところまで、ハーケンがきいていない。こんなところでは安全のために上のカラビナにアブミをかけてのってから、下のカラビナとザイルをはずすという厄介なのぼり方をする。
確保しているNの体をくぐるようにしてトップへ出た。ここも左トラバースである。古い細い捨なわがあった。いやらしいヒモだ。が、のらなければならない。Nに声をかけてアブミを残したまま二人用テラスへ飛込んで確保する。Nはのぼってくるなり、カンテをまわりこんで核心部へ入っていった。三五メートルの青白ハングの中心部であった。
下からみると青白くはげた菱形をつらぬく対角線上の一部である。ここの通過はずい分長いように思われた。カンテから首を出してみるたびに、Nはすぐそこにいるようであった。
一日中つきまとっていたブヨが、ここでも執拗に喰いついてくる。牛馬がシッポを振ってアブを追うように、手足を片方ずつバタバタさせているがその効を現わさない。
時間ははじめから気にかけないことにしていたが、大分、まわりはうすぐらくなってきたようだ。