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あきや
空家
宮崎 湖処子
「国民之友」1889(明治24)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,554 字 · 30 页
間流れ丸に中たりて即死したる報道を得しより、いと痛う力を落しぬ、これよりは隠気に鎖じ籠り終日戸の外にも出でず、屋の煙さえいと絶え絶えにて、時々寒食断食することさえあり、さながら喪を守るもののごとく半月余もかくして過しぬ、
ある日阿園はあまりの暑さに窓をあけて外面を眺めぬ、日はあたかも家の真上にありて畑の人は皆昼餉に急げり、と見れば向うの路より一個の旅人、大いなる布の包みを負いて此方に歩めり、ようやくに近くなれり、絶えず打ち守る此方の顔を旅人も目標として来るさまなりき、阿園は飛び立ちて独語せり、「佐太郎主にてはあらぬか、佐太郎主によくも似てあり、……否佐太郎主ならば、宿の主も一しょに帰らるべきものを、……さりながら余の人とは……いかにも佐太郎主のような……」
げに旅人は佐太郎なり、彼は今ただ一人帰れるなり、彼はさきに身を立つべき資を得んと百日余り命を賭け牛馬のごとく追い使われしが、今は危難と苦役の地獄を出て、懐かしき家路に上り、はるばるも故郷の橋を渡れるなり、彼が喜悦に溢るる心緒は、熊本籠城の兵卒が、九死一生の重囲を出でて初めて青天白日を見たる