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あきや

空家

宮崎 湖処子

「国民之友」1889(明治24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,554 字 · 30 页

青空文庫

佐太郎を遣わし給えり、彼は瓜、茄子、南瓜、大角豆、満ちたる大いなる籃と五升入りの徳利とを両手に提げて訪い来たれり、「姐子今日は兄貴が一七日、大方法事を営まるることと、今朝寺に案内し、帰るさに三奈木の青物店に立ち寄り、初物品々買うて来ぬ、兄貴は大角豆が好きなりしゆえ、余分に求めしわが寸志、仏前に捧げられたし、もしこの籠一個にて今日の法事の済みもせば、われにもこの上なき本望なり」と、絶望の余にかかる恵みの音ずれあり、ことさら夫が好きの物と聞くからに、感謝の語のすべることも無理にはあらず、「夫に勝る卿の親実、しみじみ嬉しく忘れはせじ」と、

分に過ぎたる阿園が感謝に、佐太郎は気を取り外せり、彼は満面に笑みの波立て直ちに出で行き、近処に法事の案内をし、帰るさには膳椀を借り燗瓶杯洗を調え、蓮根を掘り、薯蕷を掘り、帰り来たって阿園の飯を炊く間に、吸物、平、膾、煮染め、天麩羅等、精進下物の品々を料理し、身一個をふり廻して僕となり婢となり客ともなり主人ともなって働きたり、日暮るれば僧も来たり、父老、女房朋友らの員も満ち、看経も済み饗応もまた了り、客は皆手の行き届きたることを賞めて帰れば、涙をもって初めし法事も、佐太郎の尽力をもて満足に済みたり、