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くうきおとこ

空気男

海野 十三

「モダン日本」1937(昭和12)年1月~8月、10月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,792 字 · 10 页

青空文庫

……」

と、勢いよく飛びこんでみたが、なんたる不思議、そこに居ると思った亭主清家博士の姿が見えない。

博士夫人

「おンや、お前さん、どこへ隠れたのさあ」

ファッショの妻君は、室内に入ると、清家博士の姿が見えないので、愕きかつ憤慨の態である。――しかし室内には、蠅一匹見えやしない。

「窓から飛び出したようにも見えないんだけれど……」

妻君は窓のそばによって、硝子戸を上にあげた。

「ハ、ハッショイ。――」と、そのとき突然大きな嚏の音がした。

「おやおやおや、誰が噂をしたのだろう。妾しはたしか嚏をしないのに、外に誰がしたというのだろう。はてナ……」

妻君の眼がギラギラ光り出した。

そのときであった。妻君の頭髪を上の方へギューッと引張りあげたものがある。

「うわーッ、あいたあいたあいた。で、誰れ?」

すると上の方で、猫が風邪をひいたようなしゃがれ声がした。

「コラ、女よ。わしは猫の神じゃ。お前の亭主は不都合なのじゃから、わしが連れてゆくぞや。オイ、窓のところを見ろ」

妻君が、ハッと窓の方を見たときだった。風もないのに硝子戸がガチャーンと割れて、あとに大きな穴がポカリと明いた。