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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

確乎たる報告が集らぬではないか」

「閣下。例の怪放送者は、すでに先手を打って、敵機の退散をアナウンスして居ります。況んや、唯今、川口町の報告によれば、敵軍は、明かに、機首を他へ向けています」

「君は、今の報告を盗み見たかッ」

「閣下、盗み見たとは、残念な仰せです。参謀長は、あらゆる報告に、一応目をとおす職責がございます」

「ウム」

「此の上は、速かに解除警報の御許可を、お与え下さい。市民は、軍部の、正しいアナウンスを、渇望して居ります。一刻おくれると、市民の混乱は拡大いたします」

「敵国空軍が、川口の上空から、引返して来たとしたら、どうするかッ」

「そのときは、又、警報を出します。しかし以前の監視哨の報告三種を合わせて、敵軍は日本海方面に引揚を開始していることは、明瞭であります」

「確証がつかないのに、司令官として、解除警報を出すわけにはゆかぬ」

「どうあっても?」

「くどい、参謀長!」

俄然、司令部の広間は、殺気立った。

将校連は、二派に別れて、司令官と、参謀長の背後に、睨みあった。

何という不祥な出来ごとだろう。帝都の運命が累卵の危きにあるのに、その生命線を握る警備司令部に、この醜い争闘が起るとは。