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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

流石に、教養のある将校たちのこととて、無暗に、拳銃を擬したり、軍刀をひらめかしたりはしなかったが、司令官か、参謀長かの一言さえあれば、刹那に、司令部の広間には、流血の大惨事が、捲きおこるという、非常に緊迫した重大な危機に、立至った。

司令官の顔は、紙のように蒼ざめて、唇がワナワナと震えて来た。

参謀長は、満面朱を塗ったように怒張し、その爆発を、紙一枚手前で、堪えているようであった。

コツ、コツ。

扉にノックの響があった。

室内の、息づまるような緊張が、爆発の直前に、ちょっと緩んだという形であった。

やがて、扉は、静かに開いた。

高級副官、湯河原中佐の円い顔が、あらわれた。この室内の光景を見ると、駭くかと思いの外、ニヤリと、薄ら笑いを、口辺に浮べたのだった。

中佐は、ツカツカと司令官の傍に近づいた。

「申上げます。唯今、御面会人で、ございます」

「面会人。誰だッ」

「はッ、唯今、御案内いたします」副官は、入口の方を向いて大声を張上げた。「閣下、どうか、おはいり下さい」

扉の蔭から、閣下と呼ばれた人物の、カーキ色の軍服が、チラリと見えた。ガチャリと佩剣が鳴って、一人の将校が、全身をヌッと現わした。