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くうしゅうそうそうきょく
空襲葬送曲
海野 十三
「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页
早く、帰って下せえ」
青年は、一向悪びれた様子もなく、階段を下って行った。
「先生様も、ちと注意して下せえよ」と背後を振りかえり、それから又往来の方を向いてそこらにブラブラしている四五人の男に向って、「おい、皆の衆。お前ら駄目じゃねえか」と怒鳴った。
その四五人のうちの一人が、グッとこっちを睨みかえしたのを見ると、彼は、周章てて入口の扉のうちに、姿を隠した。その頓間男も、どこかで、見た男だった。
それも道理だった。頤髯男は、ここの研究所長の戸波俊二博士。大八車のように大きい男は、山名山太郎といって、印半纏のよく似合う、郊外の鍛冶屋さんで、この二人は、帝都爆撃の夜、新宿の暗がりの中で知合いになり、助け助けられつつ、この駿河台の研究所まで辿りついたのが縁で、唯今では、鍛冶屋の山さん、変じて、博士の用心棒となり、無頓著な博士の身辺護衛の任にあたっているのだった。戸波博士は、いま軍部の依頼によって、或る秘密研究に従事している国宝のように尊い学者だった。さてこそ、門前には、便衣に身体を包んだ憲兵隊が、それとなく、厳重な警戒をしている有様であった。
戸波研究所を立出でた青年は、私服憲兵との間に、話がついていたのでもあろうか、別に咎められる風もなかった。