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くうしゅうけいほう

空襲警報

海野 十三

「少年倶楽部」別冊付録、大日本雄弁会講談社、1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,838 字 · 92 页

青空文庫

そして駒をパチパチ並べはじめた。そのときまでの、この車内の光景ときたら、婦人や子供といわず、堂々たる若者たちまでが、本物の爆弾投下のものすごさにおびえて、すっかり度を失っていたのだ。ある大学生はブルブル慄えながらナムアミダブツを唱え、三人づれの洋装をした女たちは恐怖のあまり、あらぬことを口走っていた。列車の窓から外へ飛び出そうとする母親を子供たちが引留めようと一生けんめいになっていた。まるで動物園の狐のように車内をあっちへいったり、こっちへいったり、ウロウロしている会社員らしい男もあった。

「ああ呆れた。あそこを見なよ。この騒のなかに呑気な顔をして将棋をさしている奴がいるぜ。ホラ、あそこんとこを見てみろ……」

登山がえりらしい学生の一団の中から、頓狂な声がひびいた。――「将棋をさしている奴がいる」

その声に、室内の人々はあッとおどろいて、学生の指さす方角を覗きこんだ。

「さて残念! あいにくと銀がないわい……」

辻村氏は顔を真赤にして、毛のうすい頭からボッボッと湯気をたてていた。

「あッはッはッ。これァ愉快だッ」

学生団がドッと笑いだすと、いままで取り乱していた連中も、我に返ったように、おとなしくなった。