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くうしゅうけいほう

空襲警報

海野 十三

「少年倶楽部」別冊付録、大日本雄弁会講談社、1936(昭和11)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,838 字 · 92 页

青空文庫

早く火元へ駈けつけたくても、あわて騒ぐ市民がウロウロ道に出てくるので、あぶなくて思うように運転が出来ないからだった。あッ、また向こうの横町から洋装の女がとびだしてきた。

「あぶない!」

運転手はわめいた。サイレンは、さらに猛烈に咆えたって、女の前をすれすれに駈けぬけた。

燃えやすい帝都に、一箇所でも火災をだすことは、この際一番おそろしい。ぜひとも早く消しとめなければならないと、消防隊は一生懸命なのだった。

火事はお邸町だった。

消防隊員はバラバラととびおりて、直ちにホースを伸ばしていった。物凄い火勢だ。どうして焼夷弾を消さなかったんだろう。

「……実にけしからん」

と小頭が頭をふって怒りだした。

「この辺の邸は、どこも逃げてしまって、なかには犬っころがいるだけだ。実にけしからん。だから焼夷弾が落ちても、誰も消手がないのだ。非国民もはなはだしい!」

消防隊員を憤慨させたこの辺一帯の避難民はどうなったであろうか。彼等は甲州の山奥に逃げこむつもりで、新宿駅に駈けつけたが、たちまち駅の前で立往生をしてしまった。あまりに夥しい避難民が押しよせたので、もう身動きもできなかった。