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とってい
突堤
宮本 百合子
「中央公論」1935(昭和10)年10月「中央公論」五十周年記念特大号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,221 字 · 15 页
「まアおばん様、あぶなかったのし」
と国言葉で云いながら出て来て、祖母を扶けて座敷へ上げて呉れた。
そうこうしているうちに汽車に乗るはずの時刻は夙に過ぎた。絣姿の弟たちはステーションでさぞ待ちかねて不安でもいるのだろう。私は、
「おばあさん、きょうはおやめにしましょう、ね。国ちゃん達を呼んで来て頂きましょうよ」
と云うが、おばあさんは低い声ながら、
「折角出かけたからには行って見べし」
と、程なく自分から立って帯などをしめるのであった。
上戸という駅で私たちは汽車を降りた。朝から曇っていたところ汽車を降りたら雨が細かく降り出している。二間ばかりの掘割があって、往来の左右に柳が茂っている。バスケットなど下げて湖の畔まで歩いて行くうちに、雨は本降りのようになった。湖畔にひとを泊める家は一軒しかないらしかった。ほんとうの田舎宿で、上り端の埃だらけな板敷の隅に南瓜がどっさり並べてあった。キシキシと暗い段梯子をのぼって天井の低い二階へあがると、すぐそこの部屋に黄色い髪をした女の西洋人が若い日本の女と乱雑な荷物の間で何かしていた。水の入ったブリキの大きい盥のようなものが煤けた畳の真中に出ている。