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ぬすむおんな

窃む女

黒島 伝治

1923(大正12)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,734 字 · 18 页

青空文庫

そして頭の中に不快なもがもがが出来ていた。

「これ二反借って来たんは、丸文字屋にも知らんのじゃけど……」

もう行ったことに思っていたお里が、また枕頭へやって来た。

「あの、品の肩掛けと、着物に羽織は借って戻ったんを番頭さんが書きとめたけんど、これ二反はあとから借ってつけとらんの。……」

「何だって?」

「この二反も、一と口ことわっとかにゃ悪いと思うて、待ちよったけれど、客が仰山居って旦那も番頭も私なんどにゃ見向いても呉れんせに、黙って借って来たん……。」彼女は弁解するようにつゞけた。

「それでどうするんだ?」

「……」

「向うに知らんとて、黙って取りこむ訳にはいかんぜ。」

お里は何か他のことを二言三言云った。その態度がひどくきまり悪るそうだった。清吉は、自分が云いすぎて悪いことをしたような気がした。

お里は、善良な単純な女だった。悪智恵をかっても、彼女の方から逃げだしてしまうほどだった。その代り、妻が小心で正直すぎるために、清吉は、他人から損をかけられたり儲けられる時に、儲けそこなって歯痒ゆく思ったりすることがたび/\あった。

彼は二十歳前後には、人間は正直で、清廉であらねばならないと思っていた。