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ぬすむおんな

窃む女

黒島 伝治

1923(大正12)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,734 字 · 18 页

青空文庫

丸文字屋の内儀は邪推深い、剛慾な女だ。番頭や小僧から買うよりも、内儀から買う方が高い、これは、村中に知れ渡っていることである。その内儀が火鉢の傍に坐りこんでじろ/\番頭や小僧の方を見ている。金をごま化しやしないか見ているのだ。

番頭のところには五六人も客が立てかけて値切ったり、布地をたしかめたりしている。番頭に買うと安いのだ。

お里は待っても待っても機会が来ない。彼女は風呂敷に包んだ反物と蟇口の金とを胸算用で、丁度あるかどうかやってみるが頭がぐら/\して分らなくなる。……

清吉は、こういう想像を走らせながら、こりゃ本当にあることかもしれないぞ、或は、今、現に妻がこうやっているかもしれない。と一方で考える。

お里がびく/\しながら、番頭の方へ近づくと、

「あ、そうですか。」番頭は何気なく、書きとめた帳を出して見る。彼は、落ちつかない。そそくさしている。

「△円△△銭になります。」

「そうでござんすか。」

お里は金を出す。無断で借りて帰った分のことをどうしようかと心で迷う。今云い出すと却って内儀に邪推されやしないだろうか?……

番頭は金を受取ってツリ銭を出す。