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まどにさすかげ

窓にさす影

豊島 与志雄

「小説公園」1952(昭和27)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,068 字 · 26 页

青空文庫

衣紋竹の着物が窓硝子に映るわけでもなかったが、用心しなければいけないという気持ちだった。

祖母が亡くなってからは、そういう気持ちが一層嵩じた。

祖母の死から、私は心身に直接の打撃を受けた。嘗て姉が病死したことがあるが、まだ私は幼く、大して深い感銘は受けなかった。祖母の死に接しては、身にも心にも、大きな穴があいた感じだった。

身内にあいたその穴の方へ、私の思いは引きずり込まれがちだった。そしてぼんやりした空虚な時間がまま起った。そのような時、室の窓硝子に何かの影が現われ、すぐ消えはしたが、はっと私を驚かした。

他人は気付かなかったかも知れないが、いけないことが幾つもあった。

葬儀の前、祭壇は美しく飾られ、上方に祖母の写真が立てかけてあった。その引き伸しの大きな写真が、どうしたことか、前に倒れて、表面の硝子にひびがはいった。この方が、硝子が光らず、写真がよく見えて、却っていい、と兄は言って、硝子を取り除けてしまった。私は嫌な気がした。

祭壇が出来る前、家の三毛猫が、室にのっそりはいって来た。N叔父さんが、眼を怒らして叱り、猫を追い出して、死人の室に猫を入れてはだめだ、と言った。