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たてふだ

立札

豊島 与志雄

――近代伝説――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,218 字 · 21 页

青空文庫

いつも多少の見物人がありました。その中に交って、背の高い朱文が、人一倍長そうに思われる両腕を、手先だけ袖口につっこんで腹のところで輪になし、ぼんやり佇んでいる姿は、妙に人目につきました。それがまた他の見物人を誘って、いつも、彼のいるところには人立がふえました。

船から河岸へ荷役のあるたびごとに、朱文は大抵その近くに出て来ましたし、背が高く腕が長そうだというただそれだけで、妙に人目につくその姿が、だんだん見馴れられて珍らしくもなくなります頃、もう既に朱文のことは、荷役の苦力たちには固より、寄港する船の水夫たちにまで、よく知られてしまっていました。殊に、彼が奉公してる張一滄は、港に商館や倉庫を持っていましたので、その信用が彼の上にまで拡ったことも見逃してはなりません。

彼はただぼんやり港の荷役の光景を眺めてるだけのようでありましたが、一年ばかりたつうちには、その間に徐々にではありましょうが、荷役人夫の組合を拵えてしまって、その元締の地位にしっかと腰を下していたのであります。殊に張家の荷役は全く彼の手中に握られていました。後になってこのことに気付いて喫驚した人も少くありません。