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たちがれ
立枯れ
豊島 与志雄
「改造」1933(昭和8)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,613 字 · 41 页
そういう傾向が近頃では更にひどくなっていた。今も彼はそうした心理の渦みたいなところに巻きこまれて、それに僅かに逆らう気持から、以前の思想運動の仲間の動静や、ひいては多少とも西田のことまで、キミ子を使って探らしてみようかとも考えたのであるが、それも興味のもてない億劫さから、何の動きともならないで、ただ現在のうらぶれた無気力な気分に浸るばかりだった。そしてこのちらと動いた考えに、キミ子のことが浮んだのをきっかけに、また彼女のことを思い耽って、小泉のところで別れたきり電話もかけてこないのは、ふだん始終電話をかけてよこす彼女としては、どうしたことだろうと、そんなことが気になるのだった。
晩になって、夕食がすんでからも、中江は仕事もせず読書もせず、ただぼんやりしていた。そこへ、電話のベルが鳴ると、電気にでもふれたように飛び上った。果してキミ子からだった。――あれからどうなすったの、と尋ねてきた。あたしのことについて小泉さんと何をお話しなすったの、と尋ねてきた。今何をしていらっしゃるの、と尋ねてきた。どこにいるのかときいても笑って答えなかった。そして急にしおれた調子で、二十円だけ借して下さいというのだった。