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たちがれ

立枯れ

豊島 与志雄

「改造」1933(昭和8)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,613 字 · 41 页

青空文庫

そしてそれが意識のなかに落付くと、逆に腹を据えて、ふみ枝や千代次まで呼び寄せて、賑かに盃を重ねるのだった。彼は大体見栄坊で、世間体もきちんと取繕う方だったので、待合へ不義理をすることなども不愉快だったし、殊に着物の裾のすり切れてることなどは、ひどく気にかかるのだった。

島村陽一が、芸術家らしい乱れた髪で、のっそりした態度で、屈托のないにこにこした顔で、そこに姿を現わした時には、中江はもう可なり銘酊していた。それでも姿勢はくずしていなかった。意識のなかにどこか冴えた部分があって、そこに、綿の覗きだしてる着物の裾がひっかかるのだった。

「呼びだしてすまなかったが……僕ももう酒の飲みじまいだ。」と中江はばかな弱音を吐いた。

「相変らずだね。」

だがいつも変らないのは彼の方だった。嬉しいのでも不服でもなさそうに、ただのんびりして、にこにこしている島村を、中江は感心したように眺めるのだった。貧乏なのは昔からで、それで一向苦にならないらしく、ここの家の勘定だって、もう随分たまった筈らしいなどと、平気な顔をしていた。がそれよりも中江の腑におちないのは、彼と静葉との関係だった。