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たちがれ

立枯れ

豊島 与志雄

「改造」1933(昭和8)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,613 字 · 41 页

青空文庫

キミ子は神経の衰弱並に過敏、中江は胃病に組織弛緩。殊にこの、恐らくは筋肉や皮膚や内臓や……否殆んど全身の組織の弛緩は、中江が漠然と而も不断に疑懼していたことだった。いやいや、診察なんかは……とそう咄嗟の反撥の気持が、すぐ側のキミ子の存在に絡まっていって、小泉の視線の前に並んでる二人の肉体が意識され、それがお互の体臭を分ち合ってることが意識されるのだった。

窓外の木斛の青葉が、日に照され光って、いやに中江の眼にしみた。

さて、用事は済んだから、という態度で、小泉の調子が一変して、久しぶりだから、あちらで、話していかないかと誘われると、中江は、全く無気力な状態になって、キミ子の方へ、もうこれでいいんでしょうと、先に帰ることを暗にすすめてしまった。キミ子の眼が底光りを帯びて、じっと見据えられたけれど、中江は何の反応も示さなかった。彼女は短い髪の毛をかき上げると、小泉の方へ苦笑に似たしなをして、活発に立上った。

後に残った二人は、友人として、客間に対座したのだったが、それが中江にはへんに物珍らしかった。彼は近頃、どの旧友をも、ゆっくり訪れるということが殆んどなくなっていた。