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どうてい

童貞

夢野 久作

「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,572 字 · 27 页

青空文庫

「なるほど……それじゃ生やさしい女じゃないんですね」

「……おまけにその瑠璃子って奴は変装がお得意らしいんです。何でも東京へ来てからは若い奥さんか何かに化けて、乳母車を押しながら逃げまわっていたらしいんですが、そのうちにその筋の手がだんだん詰って来たもんだから、あの横町で洋装の令嬢に変装して、ぬけ殻の着物や下駄を隠した乳母車をこの男に押っつけて、こっちの方角へ突っ放したまんま、行方を晦ましたらしいんです。トテモ際どい芸当をやったもんでさあ……」

「ナアルホドネエ……張り込んでいる刑事がこの男を調べている隙を見て非常線を突破したわけですな」

「どうもそうらしいんです。あっしの想像ですけども……つまり最後の手段を執ったんでしょう」

「ヘエ――驚いたナ。……しかし、よく御存じですナア。何もかも……」

「ハハハハハ。イヤ。ナアニ。今サッキ向うの八百屋へ刑事が飛び込んで電話をかけたのを、くっ付いて行ってスッカリ聞いちゃったんです。懇意な家でしたから……」

「ハハア……ナルホドネエ……じゃアもうそこいら中に非常線が張ってあるんですね」

「エエ。無論そうでしょう」

ここで話が途切れて周囲がシンカンとなった……と思う間もなく昂作の足の処から甲高い子供の声が飛び出した。