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わらうおしおんな
笑う唖女
夢野 久作
「文芸」1935(昭和10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,719 字 · 31 页
「ふうん。併し物を遣っても要らんチウし、自分の腹を指さいて何やら云いよるではないか」
「ヘエ。もう産み月で痛み出して居るかも知れませんがなあ。ちょうどこの村から姿を隠いた時分から数えますと十月ぐらい。………そうとすれば孕ませた者は、この村の青年かも知れませんが……ヘヘヘ……」
「うむ。困った奴じゃのう」
「何せい相手が唖女で、おまけの上にキチガイと来ておりますけに、何が何やらわかったものでは御座いません」
「しかしここが医者の家チウ事は、わかっとる訳じゃな」
「さあ。わかっておりますか知らん。オイオイ花チャン。ここ痛いけん」
一作爺が自分の腹を指して見せながら、唖女の顔を覗き込んだ。
しかし唖女のお花は答えなかった。最前からの二人の問答を、自分の事と察しているらしく、無邪気な、真剣な眼付で二人の顔を代る代る見比べていたが、そのうちに、栗野博士夫妻の背後から、物珍らしそうに覗いている新郎新婦の中でも、先に立っている新郎澄夫の青白い顔に気が付くと、お花は見る見る眼を丸くして口をポカンと開いた。泥だらけの手足を躍らして小犬のように跳ね上ると、玄関の式台へ泥足のまま駈け上って、栗野博士を突除けながら、澄夫の袴腰にシッカリと抱き付いた。