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そろばんがこいをかたるはなし
算盤が恋を語る話
江戸川 乱歩
「写真報知」報知新聞社、1925(大正14)年3月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,096 字 · 16 页
帳簿をつける時も、算盤を弾く時も、少しも忘れる暇はないのです。するとある日のことでした。彼は算盤を弾きながらふと妙なことを考えつきました。
「少し分りにくいかも知れぬが、これなら申分がないな」
彼はニヤリと会心の笑みを浮べたことです。彼の会社では、数千人の職工達に毎月二回に分けて賃銀を支払うことになっていて、会計部は、その都度工場から廻されるタイムカードによって、各職工の賃銀を計算し、一人一人の賃銀袋にそれを入れて、各部の職長に手渡すまでの仕事をやるのでした。その為には、数名の賃銀計算係というものがいるのですけれど、非常に忙しい仕事だものですから、多くの場合には、会計部の手すきのものが総出で、読み合せから何から手伝うことになっていました。
その際に、記帳の都合上、いつも何千というカードを、職工の姓名の頭字で(いろは)順に仕訳をする必要があるのです。始めの内は机をとりのけて広くした場所へそれをただ「いろは」順に並べて行くことにしていましたが、それでは手間取るというので、一度アカサタナハマヤラワと分類して、そのおのおのを更にアイウエオなりカキクケコなりに仕訳る方法をとることにしました。