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こめとまずしさ
米と貧しさ
山本 周五郎
「朝日新聞」1961(昭和36)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,084 字 · 5 页
これは四月のことだから、それらはまだ刈り田で、ごくまれに土をすき返しているところがある程度だった。けれども私にはその広大な茶色の平野が、いちめんに青々と波打つ稲、黄色くうれた稲によって、びっしり塗りつぶされる景色もありありと想像することができた。
片っ端から田をひろげ米を作る、と私は同行の友人にいった。収穫した米を腹いっぱいに詰め込んで、めしのげっぷをしながら田をひろげ、平地で足りなくなると丘から山の上までひろげてゆき、そうして収穫した米をノドまで詰め込んでは、食い飽きた顔でげっぷをしている。ひどいものだ、これはりっぱな悪循環ですよ、と私は若い友人にいった。詳しくは知らないが、日本の農業試験場のおもな仕事は、稲の改良と増産の研究にかかりきりのようである。もちろん他の作物の研究もしていることはたしかだろうが、攻撃目標が伝統的に「米」へ主力を注入していることはたしかでしょう。なにしろみずほのくにというのがこの国の原初的な誇号なのだから。そうして稲を改良し農薬を使って増産し、そのため木を切り倒し、丘をくずし、農薬のため川魚が滅亡し、ホタルがいなくなっても、腹いっぱいめしを食べてげっぷができれば、なにも文句はないといったようすである。