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こうもうけいせい

紅毛傾城

小栗 虫太郎

「新青年」1935(昭和10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,403 字 · 50 页

青空文庫

しかし、ここに奇異というのは、間もなく横蔵の場合と、符合したかのように、慈悲太郎が悪疫にたおされてしまったからである。

そして、季節も秋近く、そろそろ流氷のとどろきがしげくなったころ――、その日は、暮れるとともに、恐ろしい夜となって展開した。

一刻一刻と風は高まり、海は白い泡をかぶって、たてがみのような潮煙を立てた。その時、異様な予感にそそられて、フローラは頭をもたげ、部屋の濃い闇の中をじっとのぞきはじめた。それは、嵐の合間を縫って、どこからともなく響いてくる、漠然とした物音があったからだ。

そうして彼女は、その夜更けに、ふと慈悲太郎との部屋境にある、格ガラスを透かして、時折り青白いはためきをする、蝋燭の炎を見つめているうちに、いきなり、激しい恐怖の情に圧倒されてしまった。

見ると、扉がいつの間に開かれたのであろうか、荒れ狂う大風に伴った雨の流れが、その格ガラスの上に、ドッと吹きつけたのである。と思うと、瞬間おどろと鳴り渡った響きの中から、見るも透んだ蒼白い腕が――しかも、指のひしゃげつぶれた、反り腕の父のそれが――フローラの眼をかすめて、スウッと横切ったのであった。