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なっとうかっせん
納豆合戦
菊池 寛
「赤い鳥」1919(大正8)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,774 字 · 8 页
一
皆さん、あなた方は、納豆売の声を、聞いたことがありますか。朝寝坊をしないで、早くから眼をさましておられると、朝の六時か七時頃、冬ならば、まだお日様が出ていない薄暗い時分から、
「なっと、なっとう!」と、あわれっぽい節を付けて、売りに来る声を聞くでしょう。もっとも、納豆売は、田舎には余りいないようですから、田舎に住んでいる方は、まだお聞きになったことがないかも知れませんが、東京の町々では毎朝納豆売が、一人や二人は、きっとやって来ます。
私は、どちらかといえば、寝坊ですが、それでも、時々朝まだ暗いうちに、床の中で、眼をさましていると、
「なっと、なっとう!」と、いうあわれっぽい女の納豆売の声を、よく聞きます。
私は、「なっと、なっとう!」という声を聞く度に、私がまだ小学校へ行っていた頃に、納豆売のお婆さんに、いたずらをしたことを思い出すのです。それを、思い出す度に、私は恥しいと思います。悪いことをしたもんだと後悔します。私は、今そのお話をしようと思います。
私が、まだ十一二の時、私の家は小石川の武島町にありました。そして小石川の伝通院のそばにある、礫川学校へ通っていました。