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むらさきのびん

紫の壜

豊島 与志雄

「明日」1948(昭和23)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,802 字 · 24 页

青空文庫

淋しい焼け跡の方へ私は足を向けた。西空に半月がかかっていた。深夜で人通りはなかった。立ち枯れた雑草の中に私は飛びこみ、そこに屈みこんで泣いた。――深い深い孤独の中に私は在ったのだ。

孤独感に甘えたのではない。寧ろ堪えきれなかったのだ。そして泣いてるうちに、次第に、自分のことが見えてきた。弓子のことも見えてきた。事件の全体も見えてきた。事件の外廓も見えてきた。――その時私が何を見たか、何を感じたかは、短い言葉ではつくせない。

――彼女をあのまま一人で打ち捨てておくべきではない。

その中心点へ思念は何度も戻った。私は立ち上り、決意の足取りで、彼女の家へ戻っていった。

電灯はついたままだった。私は表からはいっていった。彼女の室は取り散らされてるようだったが、それは私の気持ちの変化の故だったろう。彼女はじっと横たわっていた。髪の毛が乱れて、力なく肌にくっついていた。体がひどく細ったようだった。私はその襟元をちょっとつくろってやり、顔の白布の皺を伸してやった。それから店の横手の階段口に立って、大きな声で二階に叫んだ。

「おばさん、おばさん、起きて下さい。弓ちゃんが大変です。