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むらさきのびん

紫の壜

豊島 与志雄

「明日」1948(昭和23)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,802 字 · 24 页

青空文庫

死にましたよ。」

私は腹が立ってきた。瀬戸の灰皿を掴んで階段を殴りつけた。

「おばさん、起きて下さい。大変です。」

おばさんは寝間着に丹前をひっかけて、階段をころげるように降りてきた。私は灰皿を土間に投げ捨て、むっつりと、おばさんを弓子の室に導いた。

私が弓子の死を知ってから、直ちにおばさんを呼び起さず、或は直ちに医者の許へ馳けつけず、一時間余りも時間を空費したということは、私にとって決定的に不利な条件となった。――然し、その所謂空費された時間が、私にとっては、如何に充実した有益な時間であったことか。

次に最も肝要な問題は、薬品に関することだった。私がもしくは彼女が、どこからそれを手に入れたか。以前から彼女が所持していたものだとすれば、どうして私がその所在を知ったのか。そういうことを私はきびしく追求された。

物的証拠を私は軽蔑するのではない。また、弓子の死体が、後には解剖までされて、仔細に検証されたことを、私は不服に思ってもいない。然し薬品に関する限り、検察当局と私とは、全く異った立場に在ることが今では明らかとなった。彼等にとっては、それは犯罪上の具体的問題であるが、私にとっては、それはこの事件の象徴的な問題として考えられるのだ。