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むらさきのびん
紫の壜
豊島 与志雄
「明日」1948(昭和23)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,802 字 · 24 页
知っているというのが悪るければ、世間ずれがしているのだ。――なにか悲しさに似たものが胸に来て、私は彼女の手を、いつものように握りしめようとした。
彼女は手を引っこめた。
「昔は、よく、手を握り合ったわね。だけど、もうそんなこと……ばかばかしい。」
「そんなら……。」
私は身を乗りだして、彼女の唇を吸おうとした。彼女はそれをよけて、コップを手に取った。
「脅迫するなら、打つわよ。」
「脅迫なんて……。」
「脅迫というものよ。男って、みんなそうよ。」
コップの酒をぐいぐいあおって、そして、へんにぎらぎらする眼を私にじっと注いだ。――彼女は豊かな感じのする顔立ではなく、頬の肉付がへんに薄かったが、耳の恰好がよくて可愛かった。その耳を、わざと蔽い隠すような風に、髪をふっくらと取りあげている。私は彼女の眼を避けて、黒髪の中のその耳を求めたが、こちらに斜めに向いてる耳は、下の方が引きつり、その引きつりが、頸筋の大きな褐色の痣へ続いている。罹災の時の火傷の痕だ。私は眼を伏せ、コップの酒をなめ、食卓に屈みこむように両肱をついて、掌に額をもたせた。
「富永さんとこでもそうだった。