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ぜつえんたい

絶縁体

豊島 与志雄

「世界」1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页

青空文庫

どうも、何か用件を持っていると、それを片付けないうちは、市木さん相手には落着けないのだった。先方があまり落着きすぎてるせいかも知れなかった。

私は率直に、竹田さんから頼まれたことを話し、水洗便所の件を切り出した。市木さんはちらと眉根を寄せてから、事もなげに言った。

「あれはいけませんな。日本の電燈は、停電するように出来ている。日本の水道は、断水するように出来ている。日本の道路は、躓いて転ぶように出来ている。だから、わたしのこの足のような始末です。水洗便所の不始末は、足首と違って、手がつけられませんからな。だから、わたしは断りましたよ。」

市木さんの意向こそ、決定的で、手がつけられない感じだった。私はそれで役目を果したつもりで、二度と話し出さないことにした。

しばし間を置いて、市木さんはふいに言った。

「いったい、ひとの家のことをあれこれ干渉する根性がいけませんよ。こんど竹田さんが来たら、そう言ってやりましょう。」

そういう点になると、私はなお自分の意見を持ち出しかねた。実は、市木さんの足の捻挫を知った時、妻に煮物でもさせて持って行かせようかと咄嗟に思ったのだが、それも余計な干渉だと言って怒られそうな気がした。