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ぜつえんたい

絶縁体

豊島 与志雄

「世界」1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页

青空文庫

市木さんはその家の所有者で、私の家は借家だった。

両者の間の竹垣は、朽ちはててぼろぼろになっていたが、それが、やはりあの颱風のために、半ば壊れてしまった。市木さんは表の坂塀は修理したが、裏の竹垣はもう修理のきかない状態であった。そしてその竹垣は、市木さんの家に所属するものだった。

いったい、家と家との間にある板塀とか竹垣とかいうものは、妙なことだが、両方に共有のものではなく、どちらか一方に所属するものらしい。そちらが先に作ったからか、或は境界の一線の内側にあるからであろう。

私の家の庭先にある竹垣は、市木さんのものだったから、壊れたからとて私がうっかり手をつけるわけにはゆかなかった。市木さんの方でも放りっぱなしだった。そして三日ばかりたってから、市木さんはその竹垣をすっかり取り壊してしまった。いよいよ作り替えるのだな、と私は思ったが、そうではなかった。

竹垣を取り払ってから、市木さんは私の庭へはいって来た。

「ちょっと、お宅の囲いを見せて頂きますよ。」

そう断っておいてから、市木さんは私の家をぐるりと一廻りして、あちこち検分した。

「お宅の囲いは、どこも壊れてるところはない。