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ぜつえんたい

絶縁体

豊島 与志雄

「世界」1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,752 字 · 38 页

青空文庫

ぼろぼろにくさっていて、眼障りでしたろう。」

「いえ、眼障りということもありませんでしたが、無くなってみると、へんなもので……もしお宜しかったら、わたくしの方で新たに作ろうかとも思っておりますが、如何でしょうかしら。」

「なあに、それには及びませんよ。わたしの方も囲いは丈夫に出来ているし、あなたの方も囲いは丈夫に出来ているから、心配はありません。」

「それはそうですけれど、わたくしの方から、あなたの方がまる見えなものですから……。」

「まる見え、それはいけませんな。」

「ですから……。」

「つまり、見るからいけないんで、見なければいいんです。」

「見なければいいと仰言っても、眼を向ければ、素通しに見えますでしょう。」

「だから、眼を向けなければいいんです。」

なんだか私は教訓でもされてるような工合になってしまった。この調子では、先方から私の方がよけいにまる見えだとは、言い出しにくくなった。それにまた、いったい市木さんは、私の家と自分の家とを一緒くたに考えて、両方とも外の囲いが丈夫ならそれでよいと思ってるのだろうか。その点をつっ込むより外に手はなかった。

「見える見えないは、まあどうでも宜しいんですが、あなたの家とわたくしの家と、両方の間に、何の区切りもないというのは、どうもへんじゃありますまいか。