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きぬとかみのはなしとしていのあいだがらのはなし

絹と紙の話と師弟の間柄の話

上村 松園

「塔影」1933(昭和8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,245 字 · 7 页

青空文庫

社会的に名を成すために便宜だとか、帝展に入選するために都合がいいとか、まるでそういう道具に師匠をつかってる人があると言ってもいい程、それほど師弟の関係は浮薄な気がします。一生涯画を描いて過ごそうと覚悟して画家を志し、そうした生涯の仕事の指導者と頼むに足る師匠として、この人ならばと目指して弟子入りした人であるとするならば、その師匠こそこの世で唯一人の頼む人で他には比較されるべき人さえない筈なのです。

西山翠嶂さんの容子や言葉扱いが、ふとするとそっくり栖鳳先生に似通ったもののあるのを感じさせられますが、師弟の間柄はそうあってこそ然るべきだという気がします。大分昔の話ですが栖鳳先生のお池のお宅がまだ改築されない頃、一週間に一度ずつ先生はお午頃から高島屋へ行かれまして夕頃か夜に入って帰られるのです。その頃塾にいて耳を澄ましていますとカランコロンと足駄の音がします。引き擦るでもなし踏み締めるでもなし、カランコロンと石だたみの上で鳴る足駄の音で、先生の歩き方には一種独特の調子がありました。跫音を聞いただけで塾生達は皆先生のお帰りと知った程でした。ところがもう先刻先生はお帰りになった筈だと思うのに又してもカランコロンと跫音がして、それが又先生の跫音に何とも言えずよく似てるのです。