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おだのぶなが

織田信長

坂口 安吾

「季刊作品 第一号」創芸社、1948(昭和23)年8月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,950 字 · 36 页

青空文庫

として反対した。そのとき信長は、勝負は時の運だよ、と言った。彼には、それが全部であり、そして、それだけで、よかったのだ。なぜなら、彼はなすべき用意はしつくしており、そしてイノチをかけていた。してみれば、彼にとっては、あとは運がすべてゞあった。人為のつくされたとき、あとの結果は運という一つの絶対に帰する筈だ。そこには悔いはないのである。百万人の幾人が、自若としてかゝる運を待ちうるであろうか。

織田氏の所領にくいこんで、今川方の大高城があった。今川軍は織田の砦を諸方に蹴ちらしもみつぶしつゝ進んでいたが、やがて大高城にとりついて休養し、兵糧を入れて前進基地とすることが明かであった。信長は大高城の前方左右に丸根、鷲津の二つの砦を構え、佐久間盛重と織田玄蕃にまもらせて、今川勢の進軍を待っていた。

今川勢は丸根、鷲津にせまってきた。その警報が櫛の歯をひくが如くに飛んでくるという夜、信長は軍評定は全然やらず、もっぱら世間話に夜ふかしをして、夜も更けた、もう帰れ、と家来たちに帰宅させた。家老たちは城を出ると顔を見合せ、運の末には智慧の鏡もくもるというが、バカ大将も今日が最後だと云って、てんでに信長を嘲弄しながら夜道を歩いて帰ったのである。