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おだのぶなが

織田信長

坂口 安吾

「季刊作品 第一号」創芸社、1948(昭和23)年8月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,950 字 · 36 页

青空文庫

あくる未明だ。今川勢が愈々鷲津丸根にとりついて攻撃をはじめたという注進がきた。

そのとき信長は立ち上り、朗々とうたいながら敦盛の舞いをはじめた。

人間五十年

化転のうちをくらぶれば

夢幻の如くなり

一度生を得て

滅せぬものゝあるべきか

信長終生熱愛の謡であり舞であった。彼の人生観ぐらい明快なものはない。この謡の文句で足りた。イノチをかけていたからだ。

謡が終えたが信長はまだ舞っていた。そして、舞いながら、ホラガイを吹け、具足をよこせ、そして舞いながら具足をつけ、立ちながら食事をとり、カブトをかぶり、なお舞いながらスルスルと出陣してしまったのである。

家来たちはバカ大将に呆れ、帰宅して、ねむっている。ホラガイの音に目をさましても、すぐに、どうなるものではない。

出陣の信長につき従った家来はたった五騎であった。それでも彼は時々路上で馬をグルグル輪型に駈けまわらせて、家来たちの何人かゞ用意して、ついてくるのを待った。そして、熱田についたとき馬上六騎のほか雑兵二百余人になっていた。

熱田神宮に戦勝を祈って、さて出発という時に、信長は鞍によりかゝり、鼻謡をうたって、しばしばノロノロと号令もかけない。