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おだのぶなが

織田信長

坂口 安吾

「季刊作品 第一号」創芸社、1948(昭和23)年8月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,950 字 · 36 页

青空文庫

信長は我流でデッチあげた痛快な餓鬼大将であったが、少年時代に、短槍の不利をさとって、自分の家来に三間半の長槍を用意させたほど用心ぶかい男であった。つゞいて鉄炮の利をさとり、主戦武器を鉄炮にかえた。これが彼の天下統一をもたらしたのだが、この要心と見識の裏にあるものは怖れの心だ。恐らく、怖れの最高、絶対なるものである。かかる信長に、三度や四度の戦勝が、まことの自信をもたらしてくれるものではない。信長には持って生れた野育ちの途方もないウヌボレがあった。それと同量の不安があった。このウヌボレをまことの自信に変えるためには、不安と同量の、他人による、最高、絶対の認められ方が必要であった。

信長の家来たちは、餓鬼大将が、どうやらホンモノの大将らしいところもあると思ったが、半信半疑なのである。

清洲から五十町ほどの比良の城の近所にアカマ池というのがある。蛇池という伝説があり、三十町も葭の原ッパのつゞいた物怖しいところである。

正月中旬というからまだ寒い季節であるが、安食村の又左衛門という者が暮方アカマ池の堤を歩いていると、一抱えほどの黒い胴体が堤の上にあり、首は堤をこえて池の中へもぐっている。