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わなにかかったひと

罠に掛った人

甲賀 三郎

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,112 字 · 21 页

青空文庫

彼女は喜びに溢れた顔をして云った。然し、友木の顔は暗かった。

不安のうちに一夜を明かした友木は、翌朝早々伸子を促がして旅に出る事にした。彼は東京にじっとしているのが何となく恐ろしかったのだった。家主に滞っていた家賃を払い、身の廻りのものを整えると、二人は汽車に投じて湘南地方に向った。

然し、友木は未だ解放されなかった。

その夜、宿で夕刊を手に取った友木はあっと声を上げた。

「なあに」

伸子は驚いて夫の顔を見上げた。

「た、大変だ。玉島が殺された」

「えッ」

二人は夕刊を引張りこしながら、段抜きの記事を読んだ。

夕刊の報ずる所によると、高利貸の玉島は今朝二階の一室に冷くなって横たわっているのを、雇人の聾の婆さんに発見せられた。玉島の胸には短刀が突刺っていた。兇行の時間は今暁一時乃至二時で、強盗の所為らしいとあった。

「まあ、驚いた。じゃ、私達の帰って直ぐ後で殺されたのね」伸子は喘ぐように云った。

「うん。潜戸は開いていたし、玄関は締りはなかったし、強盗が這入ったんだね」

「初めはあなたが殺そうとし、次に私が殺そうとしたのを、救かって置きながら、とうとう三番目の強盗に殺されるとは、よくよく殺される運だったのね」