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うつくしいむら

美しい村

堀 辰雄

序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页

青空文庫

させているのなどを見つめていると、私は無気味になって来てならない位だった。――或る朝、私は例の気まぐれから峠まで登った帰り途、その峠の上にある小さな部落の子供等二人と道づれになって降りて来たことがあった。その折のこと、その子供たちはいろいろな木に絡まっている、もっと他の山葡萄だの、通草だのをも私に教えてくれたのだった。子供たちは秋になるとそれ等の実を採りに来るので、それ等のある場所を殆んど暗記していた。それからまた小鳥の巣のある場所を私に教えてくれたりした。彼等は峠で力餅などを売っている家の子供たちであった。大きい方の子は十一二で、小さい方の子は七つぐらいだった。三人兄弟なのだが、その真ん中の子が村の小学校からまだ帰らぬので峠の下まで迎えに行くのだと言っていた。

子供たちは何を見つけたのか急に私を離れて、林のなかへ、下生えを掻き分けながら駈けこんでいった。そうして一本のやや大きな灌木の下に立ち止まると、手を伸ばしてその枝から赤い実を揉ぎとっては頬張っていた。それは何の実だと訊いたら、「茱萸だ」と彼等は返事をした。そうして彼等はときどき私の方をふり向いて手招きをしたが、私が下生えに邪魔をされてなかなか其処まで行くことが出来ずにいると、大きい方の子がその実を少しばかり私のために持って来てくれた。