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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
の畑で人工的に育て上げられた、さまざまな珍らしい花が、一どにどっと咲き出したものだから、その横町を通り抜ける者は誰しもその美しい花畑に眸をみはらないものは無いくらいであった。だが、その二軒並んだ花屋の前を通りすがりに、注意をしてそれらの店の奥に坐っている花屋の主人たちに目を止めた者は、一層の愕きのためにその眸をもっと大きくせずにはいられなかったであろう。と言うのは、その一方の店の奥にきょとんと坐っている白い碁盤縞のシャツを着た小柄な老人を認めたのち、次の花屋の前にさしかかると、何んとその奥にも、つい今しがたもう一方の奥に見かけたばかりのと寸分も異わない、小柄な老人が、やはり同じような白い碁盤縞のシャツを着て、きょとんと腰をかけ、往来の方を眺めているのに気づくだろうからだ。ただ異うのは、そんな二人のそばに坐っているのが、一方はいつも髪の毛をくしゃくしゃにさせた、肥っちょの女房であったし、もう一方はそれと好対照をしている位に痩せっぽちの、すこし藪睨みらしい女房であることだ。つまり、その二軒の花屋の老いたる主人たちは、ほとんど瓜二つと云っていいほどの、兄弟なのであった。