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うつくしきつきよ

美しき月夜

宮本 百合子

「中央公論」1919(大正8)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,063 字 · 18 页

青空文庫

彼を有頂天にしていた。それは、この尊むべく、愛すべき女性は、一生を徹して、自分に保証された者であるという落付きである。この宝物を、彼の掌から奪う何ものも、この地上には存在を許されていない。ただ、自分だけが、彼女の唯一の愛の対照として生きることができる。

彼女に達する黄金の階子(はしご)は、ただ彼の鍵によってのみ開かれる。いかほどの高処に彼女が在ろうとも、彼だけは、的確に到達することができるので、この誇とも自負ともいうべき心持は一方においては、全然無条件に彼女の高貴を承認し、讃美する。彼女の尊厳が加わるに連れて、彼の意識の奥に横わるこの自信も強度を増して来る。今の彼にとっては、これ等二重の心持が働きかけて、彼と彼女をかたい抱擁の光輝に包みながら、飽くことを知らぬ愉悦の彼方まで吹き送ったのである。

「俺は仕合わせだ」

彼は恍惚として顔を撫でた。

「俺は仕合せだ。若いマージー、美しいマージー。フム……俺も若いのだ。そして子供達も――子供達も悪くはない、仕事はよくなるだろう、生活はよくなるだろう、俺は仕合わせだ。彼女も仕合わせだ。

二人ともが健康で、愛し合い扶け合って、これから幾年か、そう幾十年か一緒に生きて行くのだ。