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びしょうじょ

美少女

太宰 治

「月刊文章」1939(昭和14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,623 字 · 11 页

青空文庫

しゃがんで、顎までからだを沈めて、身動きもできない。寒いのである。ちょっと肩を出すと、ひやと寒い。だまって、死んだようにして、しゃがんでいなければならぬ。とんでもないことになったと私は心細かった。家内は、落ちついてじっとしゃがみ、悟ったような顔して眼をつぶっている。

「ひでえな。身動きもできやしない。」私は小声でぶつぶつ言った。

「でも、」家内は平気で、「三十分くらいこうしていると、汗がたらたら出てまいります。だんだん効いて来るのです。」

「そうかね。」私は、観念した。

けれども、まさか家内のように悟りすまして眼をつぶっていることもできず、膝小僧だいてしゃがんだまま、きょろきょろあたりを見廻した。二組の家族がいる。一組は、六十くらいの白髪の老爺と、どこか垢抜けした五十くらいの老婆である。品のいい老夫婦である。この在の小金持であろう。白髪の老爺は鼻が高く、右手に金の指輪、むかし遊んだ男かも知れない。からだも薄赤く、ふっくりしている。老婆も、あるいは、煙草くらいは意気にふかす女かも知れないと思わせるふしが無いでもないが、問題は、この老夫婦に在るのではない。