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ぐんしゅう
群集
豊島 与志雄
「中央公論」1919(大正8)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,675 字 · 10 页
非常な混乱を来した。それに乗じて巡査と兵士とが正面から圧迫して来た。群集は一瞬のうちに四散してしまった。
私は電車通りを広小路の方へ歩いて行った。通りは次第に薄暗くなった。線路の真中を提灯をつけて走って行く男があった。並木の影や横町の角に、黙々として佇んでる群があった。それらの人々の顔も、須田町のより、また万世橋のたもとのより、次第に荒っぽく且つ沈鬱になっていた。腹掛をしてる者や尻を端折ってる者などが多くなっていた。
「わーッ」と声が上った。見ると向うから騎馬の兵士が駆けて来た。然し彼はそのまま万世橋の方へ駆け去ってしまった。あたりは再び静になった。
何か人々がどよめく気配がしたので顧みると、三人の男が争っていた。横町の角の所に電柱が一本立っていた。横町には群集が一杯だった。三人の男はその先頭に立っていた。一人は電柱にしがみついていた。黒い着物を着、帽子も被らず、跣足のままだった。それを、鳥打帽に駒下駄の二人の男が、しきりに電柱から引離そうとしていた。一人は眼鏡をかけていた。「痛い。」と電柱にしがみついている男は叫んだ。それから必死となってなお電柱に取つきながら泣き声を立てた。