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よしつねのむすめ

義経の女

山本 周五郎

「少女之友」実業之日本社、1943(昭和18)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,735 字 · 8 页

青空文庫

そしてそのまま、内庭のほうへ眼をやってぼんやりしていると、中門のあたりでにわかに騒がしい物音が聞え、あわただしく廊を踏んで良人の有綱がはいって来た。つねには起ち居のおだやかな良人なのに、はいって来たようすも乱がわしく、顔つきもいくらか蒼ざめているので、千珠はなにも聞かぬうちから胸がおどった。

「千珠、ことができた」と有綱は低いこえで云った、「河越城へにわかに鎌倉から兵が寄せて、重頼どのをお討ち申したというぞ」

千珠の額がさっと蒼くなった、それはまことでございますか、そう訊こうとしたけれど、舌が硬ばってしまったし、訊くまでもないということがすぐに頭へひらめいた。

「急ぎの使者で、くわしいことがわからないから、すぐようすをさぐらせに人をやった、鎌倉へも使をだしたが、伊予守どののゆかりになってお討たれなすったとすれば……」

そこまで云いかけて、有綱はあとをつづけることができなくなり、「わが身もそなたも、心をきめておかなければ」とつぶやくように云って、対屋のほうへ出ていってしまった。

いよいよそのときが来た。千珠はそう思った。二年まえ、文治五年の夏に、伊予守義経がみちのくの衣川で討たれたときから、こうした日が来るのではないかと案じていた。