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ろうふうふ

老夫婦

黒島 伝治

1925(大正14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,957 字 · 27 页

青空文庫

「くそっ! 飯を喰いに来やがった!」おしかは云って追っかけた。猫は人が来るのを見ると、急に土間にとびおりて床の下に這いこんだ。そして、何か求めるようにないた。

おしかは、お櫃の蓋に重しの石を置いて、つゞくった薄い坐蒲団の上に戻った。やがて、猫は床の下から這い出て、台所をうろ/\ほっつきまわった。食い物がないのを知ると、竈の傍へ行って、ペチャ/\やりだした。

「くそッ!」おしかはまた立って行った。「おどれが味噌汁が鍋に茶碗一杯ほど残っとったんをなめよりくさる!」

「味噌汁一杯位いやれい。」

「癖になる! この頃は屋根がめげたって、壁が落ちたって放うたらかしじゃせに、壁の穴から猫が這い入って来るんじゃ。」

こんなことを云うにつけても、おしかは、清三に学資がいるがために、家の修繕も出来ないのだということを腹に持っていた。

「もう今日きりやめさせて了えやえい」と彼女は同じことを繰り返した。「うらが始めからやらん云うのに、お前が何んにも考えなしにやりかけるせに、こんなことになるんじゃ。また、えいことにして一年せんど行くやこし云い出して……親の苦労はこっちから先も思いやせんとから!」