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ろうぎしょう

老妓抄

岡本 かの子

「中央公論」1938(昭和13)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,601 字 · 31 页

青空文庫

その上こういう発明器が果して社会に需要されるものやらどうかも疑われて来た。実際専門家から見ればいいものなのだが、一向社会に行われない結構な発明があるかと思えば、ちょっとした思付きのもので、非常に当ることもある。発明にはスペキュレーションを伴うということも、柚木は兼ね兼ね承知していることではあったが、その運びがこれほど思いどおり素直に行かないものだとは、実際にやり出してはじめて痛感するのだった。

しかし、それよりも柚木にこの生活への熱意を失わしめた原因は、自分自身の気持ちに在った。前に人に使われて働いていた時分は、生活の心配を離れて、専心に工夫に没頭したら、さぞ快いだろうという、その憧憬から日々の雑役も忍べていたのだが、その通りに朝夕を送れることになってみると、単調で苦渋なものだった。ときどきあまり静で、その上全く誰にも相談せず、自分一人だけの考を突き進めている状態は、何だか見当違いなことをしているため、とんでもない方向へ外れていて、社会から自分一人が取り残されたのではないかという脅えさえ屡々起った。

金儲けということについても疑問が起った。この頃のように暮しに心配がなくなりほんの気晴らしに外へ出るにしても、映画を見て、酒場へ寄って、微酔を帯びて、円タクに乗って帰るぐらいのことで充分すむ。