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ろうぎしょう

老妓抄

岡本 かの子

「中央公論」1938(昭和13)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,601 字 · 31 页

青空文庫

若い芸妓たちは、とうとう髪を振り乱して、両脇腹を押え喘いでいうのだった。

「姐さん、頼むからもう止してよ。この上笑わせられたら死んでしまう」

老妓は、生きてる人のことは決して語らないが、故人で馴染のあった人については一皮剥いた彼女独特の観察を語った。それ等の人の中には思いがけない素人や芸人もあった。

支那の名優の梅蘭芳が帝国劇場に出演しに来たとき、その肝煎りをした某富豪に向って、老妓は「費用はいくらかかっても関いませんから、一度のおりをつくって欲しい」と頼み込んで、その富豪に宥め返されたという話が、嘘か本当か、彼女の逸話の一つになっている。

笑い苦しめられた芸妓の一人が、その復讐のつもりもあって

「姐さんは、そのとき、銀行の通帳を帯揚げから出して、お金ならこれだけありますと、その方に見せたというが、ほんとうですか」と訊く。

すると、彼女は

「ばかばかしい。子供じゃあるまいし、帯揚げのなんのって……」

こどものようになって、ぷんぷん怒るのである。その真偽はとにかく、彼女からこういううぶな態度を見たいためにも、若い女たちはしばしば訊いた。

「だがね。おまえさんたち」