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せいかぞく

聖家族

小山 清

「文芸 第十一巻第三号」河出書房、1954(昭和29)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,523 字 · 12 页

青空文庫

イエスは母親の姿を見て、喜びの声をあげ、父親の腕から躯を乗出すようにした。若い夫婦は目を見交して笑い合った。

マリヤはイエスを胸に抱きとって、ヨセフの顔を窺った。

「坊や、泣きましたか。」

ヨセフは云いわけでもするようにうなずいた。

「おなかが空いてきたんだろう。」

井戸の傍には臼形をした水鉢がある。そのわきに一匹の牡牛が繋がれていて、はげしい喉の渇きを癒そうとするらしく、さかんに水鉢の水を飲んでいた。この柔和な動物も、一日の義務を終えたところなのだろう。

ヨセフは手をのばして牡牛の背をなでながら、マリヤに向って、さも同意を促すかのように、

「この牛は似ているじゃないか。」

「似ているって、なにに?」

「ほら、この子が生れたとき、馬小屋にいたあの牡牛にさ。」

「まあ、お前さんたら。」マリヤは、ずっと後になって多くのすぐれた画家たちが彼女の肖像のうえに描いた、あの優しい潤いのある目をまるくして、「牛なんて、みんな似たり寄ったりですよ。」

「そう云ったものでもないさ。ごらん、この鼻づらのへんを。よく似ているじゃないか。おれは見覚えがあるんだ。」

そう云って、ヨセフはその自分の冗談に自分からにやにやした。