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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
谷崎潤一郎『聞書抄』。同一底本的分册已合并为一书。收入:聞書抄、覚海上人天狗になる事、紀伊国狐憑漆掻語、三人法師。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,821 字 · 210 页
治めて置き申した。憚りながら、御一命をお助けしたと云うのは決して某の過言ではない、今申すような訳でござるが、しかし御辺は、実以て何も御存じないのでござるかと、息を凝らし、膝を詰め寄せてのお話に、兵部殿は返す言葉もなく、暫く呆然としておられましたが、全く以て、存じもよらぬことを承る、何を申すも近頃は外様者のようなお扱いを受け、左様なことの御相談に携わる暇はござりませねど、それを知らずに過したとあっては如何にも罪は免れられぬ、お上のお憎しみはお道理でござる、此のお詑びにはこれから精々気を附けて御注進に及びましょうと、お答えなされましたとやら。治部殿はそれをお聞きなされて、一旦兵部殿を河内へお帰しなされましたが、堤の普請は餘人を以ても勤まるであろう、聚楽の方は殿下の御成を前にして手落ちがあってはならぬから、用意萬端、兵部が指図をするようにと、上意を伝えられまして、改めて都へお呼び寄せになったのでござりました。そう云う訳で兵部殿は再びお城へ召し出だされ、それから後は毎日のように、今日はこう云うことがござりました、今日もこれ/\でござりましたと、下らぬことを仔細ありげに取り立てゝは、治部殿の許へ知らせてやる。