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にくたい

肉体

豊島 与志雄

「文芸」1935(昭和10)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,219 字 · 26 页

青空文庫

にすると、酒にほてった自分の顔をくっつけて、乳くさい匂いを貪るようにかぎました。

それからは、私はやって来る度に、何か玩具を必ず買って来ました。ミヨ子はまだ生れて数ヶ月しかたたず、玩具が分るかどうか、ただその色彩の反映を黒い眼にうつすきりでしたが、それでも、足をぴんぴんさして、訳の分らない声を立てました。私はそれを抱きとって、天井の低い二階の室の中を、あきずに歩き廻ったりしました。トキエは、私のそうした変化を訝りもせず、凡てを落付いた笑顔で受け容れていました。

そしてるうち、或る晩、小野君に出逢うと、少し酒の勢をかりてから彼は、それでも云いにくそうに、も一つ頼みがあるんだがと、躊躇しいしい云うんです。

「どうも……赤ん坊はまだ、僕の力ではだめだ……お母さんに抱かれてるところなら、何とかなりそうだが……奥さんに聞いて貰えないかしら。」

私は長い間黙っていました。奥さんという言葉の変な響きなどは、すぐに消えてしまったほど、他のことに気を奪われてるのでした。

「そりゃあ、聞くまでもなく、いいというにきまってるが……。」

ええ、いいわ……そういう彼女の調子までが、はっきり私の耳に聞えていました。