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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

「それで?」

管理人は呆気にとられたような表情で、久美子の顔を見ていたが、おしかえすような勢いで、

「十分ほど前、湖水会の事務所へ、間もなくそちらへ行くと、伊東署から連絡がありました」

といい、腕時計に眼を走らせた。

「すぐ車で出たとすれば、だいたいあと七、八分でここに着きます。不意だとお困りになるのではないかと思って、お知らせにあがったようなわけですが」

ひどく持って廻ったようなことをいうが、久美子の聞きたいのはそんなことではなかった。

「大池さん、どうなの?」

管理人は愁い顔になって、

「お気の毒なことですが、いまところ、まだ……明日中に揚ればいいほうで……なにしろ藻が多いですから。エビ藻だの、フサ藻だの……どうしてもいけなけれゃ、潜水夫を入れるしかありませんが、ここには台船なんというものもないので……」

この湖水では死体があがったためしはないと、昨日、大池が言っていたが、それは久美子のほうがよく知っている。

伊豆の古い伝説によると、湖水の湖心に大きな吸込孔があって、湖底が稚児※淵につづいていることになっている。うまく吸込孔に落ちこむことができれば、地球の終る最後の日まで、みっともない遺体を人目にさらさずにすむ……だからこそ、生存を廃棄するのに、久美子はこの湖をえらんだわけだったが……。