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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

「おっしゃることは、よくわかるんですけど、どうも、あたしではなさそうだわ。お疑いになるのはそちらのご自由よ」

「あなたがK・Uという女性なら楽だったんだが、そうでないとなると、むずかしい話になる……大池氏が自殺する最後の夜、このロッジで過されたあなたは、いったいどういう方なんです?」

「栂尾ひろ子……プロではありませんが、絵描きの部類です。本籍は和歌山……東京に寄留しています。東京の住所を言いましょうか」

「ご随意に」

「世田※谷区深沢四十八、若竹荘……ヒネているように見えるでしょうけど、これでまだ二十五です……なにか、ほかに?」

「昨日、はじめて大池氏にお逢いになったということだが、大池氏とはどんな関係なんです」

湖水の風景をスケッチするつもりで、伊東から歩きだしたのだったが、分れ道の近くで雨に逢って困っているところを大池の車に拾われ、ロッジで泊めてもらうことになったという話をした。

「すると、まったくの出合だったんだね」

捜査一課の秀才は面白そうに笑っていたが、

「君は水泳はうまいですか」

と、だしぬけにたずねた。

「余談だけど、泳げばどれくらい泳げる?」

「あたし、和歌山の御坊大浜で生れて、荒波の中で育ったようなものなの……どれくらい泳げるかためしたことはないけど、飽きなければ、いつまででも泳いでいるわ」