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はだいろのつき
肌色の月
久生 十蘭
「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页
「そうだろうと思った。水になじむ身体か、そうでないか、ひと眼でわかる……それで、あそこに乾してある服や下着は、君のものなんだね?」
「ええ、そう。みっともないものを掛けならべて、おはずかしいわ」
「昨日雨に濡れた? 丸山さんの話では、ほんの通り雨だったということだが、下着まで濡れるというのは……」
「雨のせいでなくて、靄のかかった湖の岸を歩いているうちに、朽木の根につまずいて、湖へはまりこんだというわけ」
「靄がかかっていた?……すると、朝の四時ごろのことでしょうが、そんなに早く、なにをしに湖水のそばへ行った?」
自殺するために、湖心へ漕ぎだすボートを探していた、といっても、通じるような話ではない。こんな連中に意想の中のことまでうち明ける気持はなかった。
「散歩よ……あたしたち、どうせ、気まぐれなのよ」
「それに、君の絵はユニークなものらしい。筆を使わずに、指で絵具を塗る指頭画というのがあるそうだが、君のはその流儀なんだね?」
指頭画……聞いたこともない。
「あたしの絵はそんなむずかしいもんじゃないのよ」
捜査一課の秀才はメモを取っている刑事に命令した。
「そこの絵具箱を、こっちへ……ついでに、シュミーズと運動靴を……」