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はだいろのつき
肌色の月
久生 十蘭
「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页
夢や希望がなくなり、憎しみだけがふえ、ひねくれた、意地の悪い、ご注文どおりのオールド・ミスになっていくのだろう。
子供たちはジャンボリーに飽き、湖水めぐりを始めたらしく、高低さまざまな歌声が湖畔の南側をまわってロッジのほうへ近づいてくる。
久美子は強いて眼を閉じたが、今日一日のさまざまな出来事が頭の中で波うって、どうしても眠ることができない。心臓には悪いが、ブロミディアにたよるしかないと思い、ベッドから這いだし、ジャンパーをとりに階下の広間におりた。
ジャンパーの胸のかくしから、ブロミディアの容器をとりだし、水をとりに厨のほうへ行きかけたとき、風呂場につづく裏口のほうで、うさんくさい足音が聞えた。
ガレージの横手をまわり、芝生の縁石を踏みながら裏口に近づいて来る。
「誰だろう」
遅いというほどの時間ではないが、玄関をよけて裏へまわりこんでくるのが納得がいかなかった。久美子は広間の中ほどのところに佇み、秘密めかしい訪問者の入ってくるのを辛抱強く待っていた。
煖炉の右手の扉のノッブがそろそろと動き、音もなく開いたドアの隙間から黒い人影が広間に辷りこんできた。